アロマテラピーとリラクセイション


ー精油とマッサージの複合刺激による生理学的検証ー        臨床看護学研究所 直井ひろみ

はじめに                   

 人に好感を与える香りは、生理学的に大脳辺縁系を刺激し、前頭連合野を介してドーパミンやエンドルフィンなどの神経伝達物質の分泌を促すことが知られ、結果として、心身のリラクゼーション効果やリフレッシュ効果が期待される。このことは、アロマテラピー    

(芳香療法)の名で、すでに民間療法の一つとして実践されている。また、アロマテラピーは、医療の中のも心の癒しを目的として導入されつつある。しかしながら、生理学的にいかなる効果が見られるのか、必ずしも明らかではない。私どもは病人の看護にあたり「心の癒しを軽減することが肉体の疾患を癒す」という基本理念をもっており、マッサージをを通じた肌の触れ合いによる心の安らぎを合わせ持ったアロマテラピーに期待するところは大きい。今回は、健康成人を被験者に、アロマテラピーの前後で鼓膜温を含めたバイタルサイン、および脳波をパラメターとして測定し、アロマテラピーが心身に及ぼす影響を検討し、臨床応用が可能かについて考察したので報告する。 

                

Ⅰ対象と方法                  

1. 対象者                   

   事前に検査の説明を行い、その承認が得られた健康な40-60歳後半の男性12名、女性12名を対象に行った。         

2、マッサージオイルの作成 

 自然植物精油(エッセンシャルイ)のうち、リラクセイション効果のある以下の7品目の香りを選択した。それらはゼラニュウム、ラベンダー、サンダルウット、レモン、ベルガモット、マージョラム、ペパーミントである。これら7品目をさらに好ましい香りにするため、表1に示すA B、C、Dにブレンドした。日本人の皮膚に適し、皮膚からの吸収を円滑にするため、キャリアオイル(スイートアーモンドオイル)でエッセンシャルオイルを1%の濃度とし、マッサージオイルとした。なお、被験者には嗜好に応じた4種類のマッサージオイルから1つを選択してもらった。

3、マッサージの実際とパラメター測定

検査室の気温を24-25℃に保ち、照明は間接照明とした。また、クラシック音楽をバックグランドミュージック(BGM)として流した。被験者は、排尿後,リラックスできる着衣とし10分間の安静臥床とした。その後、鼓膜音。血圧、脈拍、呼吸数を測定し、直ちに局所マッサージを施行した。マッサージは著者らが自から行い、被験者の選択したエッセンシャルオイルをたっぷりとつけ、被験者の片側の上肢に、抹消から中枢に向けゆっくりと繰り返し5分間施行した。その間、視覚的刺激を避けるため、被験者は閉眼とした。前記のバイタルサインはパラメーターとして、5分、10分、30分、60分後に測定した。    

なお鼓膜温の測定には「サーモピット」二プロⅠT-500Mを使用した。            

一部の被験者には、脳波測定を実施した。脳波はバイオフィードバックシステムFM-515を用い、前頭部2ヶ所を単極誘導とし、マッサージ直前、直後、10分後、20分後、30分後の合計5回、それぞれ5分間の測定を行い、周波分析を施行した。さらに、個別に国際規格による16チャンネルの脳波測定を行いつつ、マッサージ直前、直後,15分後、30分後に開閉眼を指示し、その後の脳波をトポグラフィー表示した。                     

                         

Ⅱ 結果                     

マッサージ前後のバイタルサインを20名の被験者で測定し、鼓膜温、血圧、呼吸数の変化をそれぞれ図1、図2、図3に示した。なお、エッセンシャルオイルの選択は、A2名、B10名C5名、D3名であった。鼓膜温(図1)は左右で測定した結果をそれぞれのエッセンシャル別に表示した。ややばらつきがみられものの5分後から低下傾向がみられ、以後、60分後に至るまで同様であった。血圧(図2)はエッセンシャルオイルAの1名を除き、不変、または低下であった。これらの変化は、5分後から観察され、以後、変動することはなかった。呼吸数(図3)は鼓膜温、血圧と異なり、5分後の血圧増加が7名に見られた。ただし、15分後からマッサージ前の状態に復し、60分後には1名を除く全例が減少、またはマッサージ前と同様であった。        

脳波測定は4人に行った。周波数分析を図4に示すが、直前にはアルファ2波が優位で、検査に集中し、直前にはベータ-波が出現し、緊張の高まりが理解できる。しかし、その後は、アルファ1波が優位となり、リラクセィシした様子がわかる。図5に示したトポグラフィーも同様であった。いずれの被験者も程度の差こそあれマッサージ後、リラクセションとともに前頭頭頂優位にアルファ1波が主座を占めた。また、バイタルサインの変化も先の結果と大差はなかった。

 

Ⅲ 考察

 生活に憩いを持たせるための香りはすでに古来から用いられ、人人には不可欠と思われる。民間療法としての歴史も古く、多くの香草が抗不安剤や眠剤として用いられてきた。最近ではアロマテラピ-として知られるが、科学的解析は十分とはいえない。私どもは「心が病めば肉体が病む」「肉体が病まば心が病む」との教えから看護に当たっては、まず、心のストレスを取り除くことを第一義的に考えてきた。しかしながら、言語を用いた方法には限界があり、多くの手段を模索した結果、アロマとボディランゲージともいえるマッサージを組み合せた方法が、臨床応用でくるであろうとの考えからこの方法を正常成人に試み、生理学的分析を行った。

 香りには嗜好の要素がはいるため、私どもは、7品目のエッセンシャルオイルをブレンドしてマッサージオイルを作成した。その結果、マッサージ直後には呼吸数が増加したり、脳波にベーター波が出現したり、正常人においても緊張の高まりが明らかである。

その後、脳波上、アルファ1波が主座を占め、リラクセションした状態と考えられ、呼吸数は安定し、半数以上の例で血圧の低下が観察された。また、深部体温まで低下傾向が見られたのである。これらのの変化は何に由来すゆのであろうか。芳香によるリラックス効果や、肌の触れ合いにより安らぎが自律神経系を副交感神経優位に傾かせることは容易に想像される。しかし、それだけで急速に体温が変わるものだろうか。私どもは、エッセンシャルオイルによる局所マッサージそのものが循環改善に働くと考えている。局所の温度変化が自律神経系に及ぼす影響はよく知られている。局所の温度変化が自律神経系に及ぼす影響はよく知られているし、なによりも鼓膜温の低下は海綿静脈洞を流れる血の増加を意味している。なぜなら、脳温を反映する鼓膜温は腋窩温よりも高く、海綿静脈洞を流れる血液量が増加すればラジエターと同様の原理で冷却するからである。いずれにしても香りは思いやり、人が人に与えられる言葉よりも強い思いやりであろう。また、肌の触れ合いは心の温もりであろう。これらの事柄から、私どもの行ったアロマテラピーはむしろ心身の病を抱えた人のこそ有用といえよう。

 

引用文献

1) 日野原重明:音楽の癒しのちから

P7 春秋社

 

参考文献

1) Benenger,T.H.and Tayioll,

GW.:Cranial measurement of

Internal temperature in man.

 

L.C.I.C.I.JAPAN 認定セラピスト 直井ひろみ

<ライセンス>

  • 英国 LCICI 認定チャンピサージ セラピスト
  • 英国 LCICI 認定カンサバトキフットケア セラピスト
  • LCICI JAPAN 認定セルフチャンピ インストラクター
  • LCICI JAPAN 認定ペアハンドケアリング セラピスト